~患者様ご自身の血液成分を用いた再生医療~
多血小板血漿(Platelet Rich
Plasma: PRP)の投与による治療法
日本では、再生医療に関する法律(再生医療新法)が2013年11月20日成立、2014年11月25日施行されました。
この法律により日本の再生医療は1種・2種・3種に分類され、
1種:iPS細胞や滑膜幹細胞
2種:血液加工物の関節内投与
3種:血液加工物の関節外投与
と定義されました。
この法律に従って国の審査を受け、
①安全性が担保された治療についてのみ
②許可された施設にて
③許可された医師によって
施行することが法律で義務付けられました。
PRP(多血小板血漿)療法は、血液加工物であるPRPを用いた治療であり、再生医療の2種・3種に属しています。
PRP治療は、ご自身のPRPを患部に投与することにより、患部の疼痛の軽減や、損傷した組織の修復を目的とする治療です。
①
変形性関節症:肩関節・肘関節・手関節・股関節・膝関節・足関節
②
スポーツ傷害
○投球障害肩:インピンジメント症候群・腱板損傷・ルーズショルダー(動揺肩)に伴う組織損傷
○上腕外側上顆炎・上腕内側上顆炎・野球肘・肘関節内側側副靱帯損傷などに伴う関節病変
○膝半月板損傷および関節内靭帯・軟骨損傷・滑膜ひだ傷害
○四肢関節の軟骨損傷
①
重篤な合併症(全身・局所)を有していないこと
②
インフォームド・コンセントを受けていること
③
この治療について十分な理解が得られていること
④
20歳以上の方
20歳未満の方は、十分な問診、診断などを行い、御本人と意思疎通が出来ており、ご本人と保護者(代諾者)双方が本治療を強く希望する場合のみ行うこととします。
①
担癌状態にある方
②
抗癌剤もしくは免疫抑制剤を使用している方
③
明らかに感染を有する方
④
発熱(38.5℃以上)を伴う方
⑤
薬剤過敏症の既往歴を有する方
⑥
その他の事情により不適と判断された方
PRPはPlatelet-Rich Plasmaを略した名称で、日本語で多血小板血漿と言います。PRPは血小板を濃縮して活性化したものです。血小板は血液1 μLに10~40万(個)含まれて、血液全体に占める割合は1%以下と言われています。血小板は、血管が傷ついたとき、傷ついた場所に集まって血を固める働きがあります。その際、血小板から多量の成長因子が放出されます。この成長因子は、傷ついた組織の修復をうながします。当院で使用するPRPは高濃度の白血球を含むL-PRP(Leucocyte-PRP)です。この成長因子を使って、治りにくい組織の修復を行い、早く組織を修復する方法がPRP治療です。ただし、PRPには組織修復を始める働きはありますが、どのような組織を作るかについて指示する働きはありません。そのため、PRP治療の後、どのような組織になって欲しいかによって、後療法(PRP治療の後に行う運動など)が変わります。
PRPには、細胞同士で情報を伝える役目を持つサイトカイン(IL-1β1)、PBP2)、PF43)、CCL54)、SDF-1α5)、CCL26))、細胞の増殖や分化をうながす成長因子(CTGF7)、HGF8)、IGF9)、PDGF10)、VEGF11)、TGF-β12)、FGF-213))が含まれます。また、血液中に含まれるタンパク質(ビタミンD結合タンパク、プラスミノーゲン、PAI14)、TSP15)、フィブリノゲン、フィブロネクチン、ビチロネクチン、α1-マイクログルブリン)、酵素(α2-マイクログルブリン、ADAMTSs16)、MMPs17))、その他の成分(カルシウム、ADP18)、セロトニン、エピネフリン、ヒスタミン)が含まれます。
筋腱靭帯等の痛みは、組織のダメージが修復されないために起こります。例えば、筋腱靭帯等による痛みは関節の組織、特に軟骨を修復することができれば改善されます。組織を修復するためには、以下の3つの要素が揃う必要があります。
① 細胞:組織を構成し、維持する働きをもつもの。
② 足場:立体構造を作るもの。コラーゲン、ヒアルロン酸など。
③ 液性成分:細胞に刺激を与えるもの。成長因子、サイトカインなど。
この3つの要素に加え、
④ 物理的刺激:刺激を加えないと、正しい機能を持った関節、筋肉、腱などになりません。硬い組織ができてしまい痛みの元になることもあります。
PRPはご自身の血液を採取し、それを遠心分離機にかけて血小板を濃縮したものです。ご自身の血液を使ってご自身に投与することから、血液提供者とこの再生医療を受ける方は同一人物(自家移植)となります。
採取した血液はすべて調製に使用するため、試料等の目的で保存はいたしません。
以下の理論に則って、治療を行います。
○血小板は、傷の修復を担当する、血液成分の1つです。
○その血小板を濃縮し、活性化した状態で患部に投与すると、血管が新しく作られたり、細胞が集まってきたり、足場と呼ばれる立体構造の基礎となるものが作られるなど、新しく組織を作る上で必要なものが患部に集まります。
○集まった細胞、足場に対して、物理的な負荷(圧力をかける、伸び縮みさせる、こするなど)を加えることで、その場所に必要な強度や物性を持った組織を作ります。
○PRPを用いた臨床研究等も数多く実施されています。例えば、膝関節痛患者6名より血液を採取して作製したPRPを、1週間おきに計3回、関節内に複数回投与した報告があります1)。PRP注射時及び経過観察期間(経過観察期間:治療終了後5ヶ月1名、4ヶ月1名、3ヶ月2名、1ヶ月2名)の有害事象と、疼痛が半減する患者の割合を評価されました。その結果、6名に生じた有害事象は、注射直後に出現した注射部位の疼痛・皮下出血、膝のこわばりでしたが、数日で自然軽快しました。一方で、治療終了後1ヶ月の時点で、6名中5名において疼痛が半減しました。
青戸克哉 他:日本人変形性膝関節症患者に対する多血小板血漿関節内注射治療の安全性と有効性.日整会誌 89:S734(2015)
治療は日帰りで終わります。
① 患者様の血液を30ml~40ml採取します。献血は200cc~400ccですので、献血よりはずっと少ない採取量です。
② 遠心分離機に2回かけてPRP(多血小板血漿)のみを取り出します。
③ PRPを患部周辺に注入します。
○当日は安静にしてください。痛みを強く感じるときは適宜鎮痛剤を服用してください。
○翌日からトレーニングを開始します。
○治療の経過観察のため、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に来院してください。来院できない場合は、当院より追跡調査を行います。また、追跡調査1ヶ月より前であっても、何かあった場合はいつでも来院して診察を受けてください。
○患者さまの症状によっては、治療を数回行うことがあります。治療前、または治療後の状態から担当医師が判断し、患者さまにお伝えいたします。
○注射後3~4日後は、細胞の活発な代謝が行われますので、腫れやかゆみ、赤みや痛みが出るなどがありますが、その後自然に消失していきます。
○痛みを強く感じている間に、安静にし過ぎてしまうと、治療部位が硬くなり長期的な痛み
の元になる可能性があります。可能な限り、治療直後よりストレッチなど、しっかりと動
かすためのトレーニングが必須です。
○投与部位は翌日から浴槽につけていただいて大丈夫です。
○投与後、数日間は血流の良くなる活動(長時間の入浴、サウナ、運動、飲酒など)を行うことで、治療に伴う痛みが強くなることがあります。ただし、この痛みが強くなったからと言って、治療効果に差はありません。
○関節は細菌に弱いので、清潔に保つよう心掛けて下さい。
○ステロイド剤を用いた治療
抗炎症作用を期待して、ステロイド剤を用いた治療が通常診療で行われていますが、逆にステロイド剤の副作用で重篤な感染症の誘発・骨粗鬆症の増悪・薬剤離脱困難等が生じてしまう可能性があります。
○ヒアルロン酸を用いた治療
関節腔内に注入されるとクッションのような働きをし、痛みを和らげる効果があります。
ヒアルロン酸注入は、ヒアルロン酸が関節腔内から消えていく(3日で消失)ため、標準的な治療として1週間毎に連続5回注入する必要があります。
ヒアルロン酸は医薬品として承認されており、品質管理された安全性の高いものですが、アレルギー反応などの可能性は完全には否定できません。
○PRP治療は、患者さま自身の血液から製造するため、患者さまごとに品質のばらつきがでる可能性がある一方、アレルギー反応などの可能性は極めて低いと考えられます。
表:他の治療法との比較表
○提供(採取)する細胞はご自身の血液なので、拒否反応・アレルギーが起こりにくい。
○日帰りでの処置が可能である。
○治療後から普段の生活が可能である。
○治療手技が簡単で、治療痕が残りにくい。
○何度でも受けることができる。
○超急性期、急性期、亜急性期、慢性期のどのタイミングでも受けることができる。
○関節、筋、腱、靭帯、骨など運動器の大半に対して治療を行うことが可能である。
○疾患を根本から治す治療ではない。
○数日間、炎症(痛み、熱感、赤み、腫れ)を伴う。
○一度に広範囲の治療を行った場合、硬さ・しこりが残ることがある。
○PRPを投与する箇所、またご自身の血液(細胞)を採取する部位に感染症が起こる可能性がある。
○適切な物理的負荷を加えないと、治療部位が硬くなり長期的な痛みの元になる可能性がある。
○長期にわたる治療効果は確認されていない。
○社会保険・国民健康保険など医療制度上の保険で受けることができない。
自家PRPを100人の膝に適用した報告では、1例で注入部位の腫脹と疼痛を認めましたが特段の治療なしで2 週間以内に消失し、他の数例で注入部位にわずかな痛みを認めたが、2~3日で消失しました。その他、重篤な有害事象は認められませんでした。国内の6人に適用した報告では、注射直後に出現した注射部位の疼痛・皮下出血、膝のこわばりでしたが、数日で自然軽快しました。その他、多くの研究で関節症、変形性膝関節症治療におけるPRP投与は安全であることが確認されています。
加えて、本再生医療等に用いるキットは、臨床使用可能なTriCell PRP KitクラスⅢ医療機器 PRP 分離・濃縮キットとして製造販売承認されています(医療機器製造販売承認番号:22900BZX00068000)。
また、採血から投与までの間に培養工程を経ないため、感染のリスクも少なく、投与におけるリスクにおいても一般的な局所注射と同様であることから、当該再生医療等技術の安全性に特段の問題はないと判断しております。
原料となる細胞(患者血液)の採取や特定細胞加工物(自家 PRP)の投与は一般的採血・投与の手技であり侵襲性が低く、また、患者由来の特定細胞加工物を用いるため、アレルギー反応が極めて少ないと考えられます。
PRPを用いた臨床研究等も数多く実施されていおり、本邦においては、膝関節痛患
6名より末梢血を採取し、PRP を作成し、1 週間おきに計 3 回、関節内に複数回投与
した報告があります。PRP 注射時および経過観察期間(経過観察期間:治療終了後5ヵ
月1 名、4ヵ月1名、3ヵ月2 名、1ヵ月2 名)における有害事象の有無と詳細、疼痛が半減する患者の割合を評価しました。その結果、6名に生じた有害事象は注射直後に出現 した注射部位の疼痛・皮下出血、膝のこわばりでしたが、数日で自然軽快しました。
一方、全例評価が可能な治療終了後1ヵ月時点でのVAS(Visual Analog
Scaleの略で、痛みの強さの指標)は、治療前と比較して全例で低下し、6名中5名において疾痛が半減しました。
以上より、再生医療等の提供による利益は不利益を上回ると十分予測されるため、当
再生医療等の提供には妥当性があると考えられます。
この治療は公的保険の対象ではありませんので、当医院の所定の治療費をお支払いいただきます。当医院において実施される本治療および本治療に必要な検査などの費用は全額自己負担となります。
治療費につきましては、別紙の料金表をお渡しし、併せてご説明いたします。
未だ確定ではありませんが、下記の表の様に予定しております。
この治療を受けるか拒否するかは、ご自身の自由な意思でお決めください。この治療を拒否しても、一切不利益を受けることはありません。血液採取後であっても、PRPを投与する直前まで、いつでも取りやめることができます。取りやめることによって、一切不利益を受ける事はありませんし、これからの治療に影響することもありません。ただし、治療を行った後は、健康管理のために、必要に応じて適切な検査を受けていただき、医学的に問題がないかを確認させていただきます。
本治療によって健康被害が生じた場合は、医師が適切な診察と治療を行います。その治療や検査等の費用については、通常の診療と同様に患者さまの保険診療にて対処することとなります。また、想定の範囲内を超える重篤な健康被害が生じた場合には、当院または担当医師の加入する保険から補償の給付を受けることができます。しかしながら、健康被害の発生原因が本治療と無関係であった時には、補償されないか、補償が制限される場合があります。特に軽度の場合には保険対象外となることがあり、その場合には保険診療の自己負担分をご自身で負担していただくことをご了承ください。
*******************備 考******************
【厚生省への届出】
再生医療等の名称:「多血小板血漿(Platelet-rich plasma: PRP)を用いた関節内疾患に対する治療」
再生医療等提供計画を厚生労働大臣又は
地方厚生局長に提出した年月日:2020年4月3日
認定再生医療等委員会の名称:安全未来特定認定再生医療等委員会
こちらで確認できます。
2種:https://saiseiiryo.mhlw.go.jp/published_plan/index/1/2
本治療に関する患者さんの情報は、原則として本治療のためのみに用いさせていただきますが、将来計画される別の研究や治療にとっても貴重な情報として使わせていただくことに、あなたの同意が頂けるようお願いします。
あなたの同意が得られれば、他の研究に情報を使用する可能性があります。その場合、あなたの検体や診療情報は個人が特定できない形で使用され、当該機関の倫理審査委員会によって、個人情報の取り扱い、利用目的などが妥当であることが審査されたものに限定いたします。
「個人情報の保護に関する法律の施行」に基づき、当院には、個人情報取り扱い実務規定があります。本規定の閲覧をご希望の方はお申し出下さい。あなたの氏名や病気のことなどの個人のプライバシーに関する秘密は、固く守られ外部に漏れる心配はありません。
本治療による成果については、今後の治療に役立てるため、医学に関する学会、研究会などでの発表、論文などでの報告をさせていただくことがあります。その際には、あなたのお名前など、個人の秘密は固く守られ、個人が想定されない形(連結可能匿名化)にいたします。
当院では安心して本治療を受けることができるよう健康被害が疑われるご相談および問い合わせ等に対して、相談窓口を設置しております。相談内容は一旦相談窓口にて承り、医師又は担当の事務職員が迅速に対応致します。
相談窓口連絡先: TEL:0246-65-7890 FAX:0246-65-7891
平日(9:00~12:30、15:00~18:00)
※ 休診日: 木曜日・土曜日12:30以降、日祝祭日
「ご来院前に」ページより、PRP(多血小板血漿)療法 問診票、PRP療法について説明書、同意書/同意撤回書がダウンロードいただけます。